農家にならなくても、農ある暮らしをしてみたい。会社員でもできる、楽しみながら農業に関わる「体験農園」とは?

ぱたぱたふぁーむ

滋賀県草津市にて、体験農園「ぱたぱたふぁーむ」を運営する、竹村さん・朏(みかづき)さん・中村さん。3人とも普段は会社員で、週末に体験農園をしています。体験農園をするまでの話や、実際にやってみて大変なことやよかったこと、会社員でもできる農業とのかかわり方について、いろいろとお話を伺ってみました!

https://pata-pata-farm.com/
(左から 竹村さん・中村さん・朏さん)
【ぱたぱたふぁーむ運営メンバー】

中村:会社ではムダ嫌いの合理主義者。家では子供にデレデレ、嫁にはソワソワ?今の悩みは家族の時間と自分の畑とぱたぱたふぁーむに費やす時間のバランスのとり方。

竹村:精密機械メーカー勤務をあといくつ寝ると60代。趣味は場末の酒場で安酒をあおること。好きな野菜はパクチー。夢を見ながら最後の悪あがきが得意。酔っぱらうとすぐポチっと何かを買ってしまって他の2人にツッコまれる

朏(みかづき):趣味は休日のサイクリング。最近はロードバイクのハンドルからスコップに持ち替えてもっぱら排水整備の溝を掘るのが趣味。いつかニワトリを畑で飼いたくてぱたぱたふぁーむと名付けましたが、ニワトリに関して他の2人の賛同は得られていない。


ーー現在のお仕事やぱたぱたふぁーむについて教えてください

3人とも、平日は会社員として働いていて、職業も年齢もバラバラです。全員、滋賀県内に住んでいるのが共通点ですね。仕事は土日が休みなので、週末を利用して、ぱたぱたふぁーむの運営をしています。

体験農園をはじめて、ちょうど1年くらいです。草津駅から車で5分くらいのところで、3反もの広大な土地で(900坪≒約3000㎡ほど。バスケットボールのコート7面分くらい!)、現在13区画を利用者の方に使っていただいています。

名前の由来は、畑畑とニワトリの羽ばたくパタパタを掛け合わせた名前です。いつかニワトリも飼いたいんですよね。ニワトリに野菜くずを食べてもらって、その糞を肥料にして畑の野菜を育てられたら、循環型の農業にもなるので、そんな将来的に目指したいイメージも踏まえて3人で考えました。

ーーそもそも、なぜ農業に興味を持ったのですか?

3人に共通するのが、小さいころに家族が家で畑をしていて、今思えば潜在意識の中にそのころの思い出がありますね。でも、それで農業に興味を持ったというわけではないです。

(中村)僕は、社会人になって週末にジョギングしていた時に、畑をしているおじさんをみてなぜか気になってしまって。声をかけていたら、気づけば農作業を手伝うようになったのが始まりで、野菜作りを勉強したいなと思ってきたんです。

(朏)実家に畑があったんですけど、誰も今後使わないと荒れてしまうなというのは分かっていて。ちょっと勉強してやってみようかなという軽い感じでした。

(竹村)海外勤務でタイにいたとき、チャオプラヤー川のほとりの、広大な土地で農夫さんが一人でずっと作業しているのを毎日通勤しながら見ていたんですよね。大変だなと思いつつ、どこかでやってみたいなと思っていました。海外はスーパーでもオーガニックの野菜コーナーがとても充実していたのですが、日本は全然なくて。なんかオーガニックの野菜を作ってみたいなと思ったのがきっかけですね。

そして、お互いがネットでいろいろ検索する中で、同じ社会人向けの週末農業学校へ通うことになったんです。それが3人の出会いです。

ーー体験農園をするきっかけは?

農業学校では、必ずマルシェを開催することになっていたのですが、たまたま僕たちの時がコロナで開催できなかったんです。卒業後にマルシェをやろうということになって、中村がリーダーになりました。もうみんな卒業して日常に戻っているので、なかなか進めるのも大変で…ちょうど滋賀在住ということで、竹村と朏がサポートに入って開催の準備を進めました。そこで、3人で1つのことを成し遂げたというのが大きかったと思います。

同じ時期に、竹村の友人から、畑(今のぱたぱたふぁーむの場所)の草刈りをしてほしいと頼まれたんです。1人ではとても手に負えなかったので、2人に声をかけて、丸3日かけて草を刈りました。すると、使う人もいないし、このまま貸してあげるという話になって、3人で何かやろうかということに。それがちょうど体験農園をオープンする半年前くらいですかね。

3人で週末だけで3反もの畑をするのは物理的に無理だったのと、農業学校の時にも体験農園の授業を受けたこともあったりして…冗談半分で体験農園出来たらいいねとは話していました。試しにジャガイモを植えたりしながら、そんなノリで、5月くらいにはHPを作ってみたんですが、それも人が来るつもりでは全くなかったですね。

たまたま試しに作ったチラシを、草津の公益財団法人に置かせてもらいに伺ったんですけど、そこで、一度取材させてほしいということになりました。そこからトントン拍子で、まだオープンもしていないのに草津市の6万世帯に配布される広報誌に載ることになり、もう逃げられなくなりました。ようやくお尻に火が付いたかんじです。そこから途切れず新聞など取材が続き、ぽつぽつと体験農園の申込も入って、3人でただただびっくりしていました。流れにのってスタートしたという感じでしたね。

そのあたりは、毎週末畑に朝から晩までいて、ずっと土を耕したり、溝を掘ったり(雨水など畑にたまった水を早く流すための外周を掘る作業)、肉体的にかなり大変だったのを覚えています。スキを使い過ぎて手にマメができたり、調子にのって深く掘り過ぎて、水が逆流してきて泣いた事もありました。

(竹村)常に溝を掘りながら「あー、しんどい、あー、しんどい」とぼやいていましたね。2m越えのセイタカアワダチソウが3反を埋め尽くす荒れ放題の畑から、毎週末、草刈、溝堀、畝たてで半年後何とか開園を迎えられました。

今でも毎週末筋肉痛(そろそろ筋肉も減少しており、関節痛)で、グルコサミンのお世話になろうか検討中です。

3反を埋め尽くすセイタカアワダチソウ

ーー実際に体験農園をやってみてどうですか?

2021年8月1日から体験農園をオープンしたんですけど、最初は8組でスタートしました。種まきして翌週に全滅したとか、ダンプや軽トラがはまったとか、多少のトラブルはいろいろありましたが、まあなんとか進んでいきましたね。幸い僕たちは、これが本業じゃないので、何かトラブルがあっても、そこまで深刻にはならないですよね。心に余裕があるので、トラブルも笑えるというか。

お金に関しては、収入が入るまでは基本的に3人で平等に割って、持ち出しでやっていました。やっと利用料が入ってきて、マイナスはなくなって、必要なものも購入できるようになりました。まだ報酬として現金をもらってないし、交通費もないですけどね(笑)

やっぱり一番うれしいのは、利用者さんが楽しんで畑をしてくれていることです。喜んでもらえるのは純粋に嬉しいですよね。あとは、自分たちの畑も横でやっているので、自分たちや利用者さんの野菜がうまく育って収穫できた時は喜びですね。家族も収穫にきたり、出来た野菜が食卓に並ぶと、豊かだなと感じます。

ーー土日のスケジュールや3人の役割分担はありますか?

オープン当初は、3人揃って月3回は出るようにしていたんですが、やっぱりちょっと大変になってきたので、誰か一人はいるような当番制にして、1人が月1回ずつ、10時から16時まで利用者さんのサポートをすることにしています。とはいえ、なんだかんだ月に5~6回は畑に来ていますけどね。

よく聞かれる内容やサポートに苦労したものとしては、種まきしてもうまく芽が出ない、徒長して(日照不足などにより、茎が細く葉の間隔が長く間伸びした状態)、上手に育苗できない、芽が翌週には虫にすべて食べられた、スタッフが育てた事がない品種の事を聞かれる、区画に植え付けられないほどの苗を持ってくる、山盛りに肥料をやってしまう等がありますね。僕たちもすべて熟知しているわけではないので、経験していないことなどは過去の経験から推測したりしながら説明しています。

役割分担は、特に明確にはなくて、それぞれができることをやる、気づいた人がやる、というような自由な感じです。最初は月1で企画会議なんかもやったりしたけれど、今は畑で作業しながら話して決めたり、ゆるくほどよい距離感でやっています。

もちろん、考え方もバラバラなので、方針や意見が食い違うこともあるのですが、役割もなければ考えもバラバラだからこそ、自分では考えもしないアイデアが出てきたり、想像を超えるような出来事も起こるし、面白い方向に進んでいると思います。

やっぱり1人だったら正直体験農園はしていなかっただろうし、3人だからこそここまでこれたと思っています。1人で畑をしていると、黙々と作業するだけだけど、みんなでワイワイできるのは純粋に楽しいですよね。大人になってからそういう場所ってあまりないので、職場でも家庭でもない場所で、こういうコミュニティが作れるのはすごくいいと思います。

ーー利用者さんはどういう方がいらっしゃいますか?

基本的には初心者の方で、畑をやってみたかったけど、マンション住まいや仕事の忙しさなどで出来なかった人が多いですね。そういう意味では、草津は大阪や京都へ通勤する人が沢山暮らしている地域なので、体験農園と相性がとてもいいと思います。

あとは、人とのかかわりを求める人が多い印象があります。単身赴任の方だったり、子どもさんが手を離れたり、1人ではなく人とかかわりを持ちたいという人が多いですね。1人じゃなかなか重い腰が上がらないから、誰かいるところでやりたいというのもよくあります。

今の時代、ネットでいくらでも野菜の作り方が調べられるのですが、逆に情報が溢れすぎていて、どれが自分にとって正解なのかわからない、選べないから、生育状況を見ながら直接教えてもらいたいというニーズも強いです。

ーーいつか体験農園をやってみたい人に向けてアドバイスありますか?

まず、人とコミュニケーションがとれることは大前提ですね。みんな人とのかかわりを求めているのもあるので、教えるだけじゃなく、世間話も大事です。

あとは、すぐに利益をだそうとするのではなく、長期的なビジョンで事業を考えていくことが大事かなと思います。例えば、会社を辞めてすぐ体験農園を初めて、利益を上げるというのはとてもリスクもハードルが高いと思っています。もちろん、就農するよりは初期投資も断然かからないですし、農家さんだと野菜ができて販売してやっとお金が入ってくるけれど、体験農園の場合は、最初の時点で利用料が入ってくるのも資金的にはありがたいですね。

あとは、規模を拡大しようとすると駐車場問題は付き物ですね。基本的に農地は駐車場がないので、今のところ僕たちも駐車場のキャパが利用者の上限という感じです。本当はもっと受け入れたいんですけどね。そういう感じで、野菜作り以外の問題も都度出てくるという感じです。

それでも、自分たちで決めてすぐ実行できるのは、会社にはない良いところですね。会社員の給与があって、初期投資もそこまで必要ないので、金銭的なリスクが少ないのはチャレンジしやすいと思います。

あとは実用的な趣味というか、食卓が豊かになったり、自然と接することで精神的にも元気になったり、メリットはたくさんあります。やっぱり一番は、みんなとわいわい楽しみながらできるということろですかね。大人になると、新しくコミュニティに入ることがそう多くはないので、色々な人と出会えて、ゆるやかに集える場所があるのはありがたいですね。

緑肥(植物を植え、土の構造をよくし、水はけ、保水力などが高める)としての一面のれんげ

ーーこれからの展望は?

すぐに利用者数の増加や規模拡大というのが難しいので、野菜販売や収穫体験などのイベントにも力を入れようと思っています。野菜作りには興味があっても、畑を借りることのハードルが高い人も多いと思うのです。だからこそ、まずは一回畑にきてもらって、自然と触れ合って野菜を収穫する喜びを感じてもらえたら、農業に興味を持ってもらうきっかけになるかなと思っています。豆類や夏野菜などを、たくさん収穫できるように植え付けています。

同じ草津市内で定期開催している、くさつファーマーズマーケットにも出店できるようになったので、収穫体験のチケットを販売しながら、自分たちで作った野菜を売っているところです。

そして、草刈り体験もスタートしています。利用者さんから、草刈りをやったことないからやってみたいという声があって、僕らも草刈りは重労働だったので、まさにウィンウィンだなと(笑) 草刈り機は、動力が異なるエンジン式とバッテリー式、刃が異なるチップソー、ナイロンコードなどいろいろ取り揃えていて、すでに問い合わせが多く、刈る雑草がなくなりそうです。こんな感じで、3人で出し合ったいろいろなアイデアをどんどん試していきたいと思っています。

農家として就農したいわけではないけれど、いずれは農業をやってみたいなと思う人は、私たちを含めて多数派だと思います。だからこそ、いつかはと思ってもなかなか踏み出せない人たちにも、こんな感じで楽しく皆で農業するやり方もあるんだよと参考になればなと思っています。農業というと、野菜を作って販売するものというイメージが強いですが、それ以外で気軽に楽しみながら始められる選択肢として、私たちが体験農園を通して、農ある暮らしの楽しさを伝えていけたらいいなと思っています。

マーケットには利用者さんと一緒に出店